今回は、分子動力学法の下準備に便利なプログラムであるacpypeのインストール方法を紹介します。以前に書いた記事『分子動力学法の計算の流れ』で、力場の割り当てが必要であるとお話ししました。この力場の割り当てを手動で行うのは非常に手間であり、何らかのプログラムを使って割り当てることを推奨します。その際に役立つプログラムの一つがacpypeです。今回はインストール方法を紹介し、次回以降の記事で使い方を紹介していきます。分子動力学法の下準備を行うにあたって、知っておいて損はないと思いますので是非参考にして頂ければと思います。
acpypeとは?
acpype(AnteChamber PYthon Parser interface)は、GROMACS、CHARMM、CNSのような様々な分子動力学法のプログラムで扱う、分子の力場パラメータの生成を容易にするantechamberのラッパースクリプトです。ちょっとわかりにくいかと思いますので簡単に言うと、antechamberは力場の割り当てを行うプログラムで、acpypeはantechamberを簡単に動かせるようなプログラム、と理解しておけばとりあえず大丈夫です。詳しく知りたいのであれば論文を参照ください、リンクを貼っておきます。
acpype論文リンク:https://doi.org/10.1186/1756-0500-5-367
Python仮想環境の構築
ここでは、acpypeのインストールをPython仮想環境に進めていきます。ここまでのブログ記事を参考にして頂いた人からすると、VirtualBoxの仮想環境と話が混ざってややこしくなるので、Python仮想環境とこちらは呼びます。Python仮想環境の話を進める前に、いったん今の環境を確認してみましょう。前回記事の手順でMinicondaをインストール済みの前提で進めますね。まず、「conda info -e」と入力してみてください。以下のような情報が出力されるはずです。
# conda environments:
#
base * /home/seth/miniconda3
これは、「base」と呼ばれるPython環境が構築されていることを示します。様々なプログラムをこのbaseにインストールすることはもちろんできますが、個人的には用途ごとにPython環境を分けて準備することを推奨します。理由はいくつかありますが、様々なプログラムをインストールしていくとプログラム間で干渉して誤作動が発生したり、そもそもインストールできないなどのケースがあります。そういった際に、大量にプログラムをインストールしていると、どれとどれが原因なのかを特定することが非常に困難になります。用途ごとに分けておけば、問題が発生した際の解決も比較的容易になると思います。
では、実際にPython仮想環境を作ってみましょう。作り方は非常に簡単です、以下のコマンドを入力するだけです。「conda create」がPython仮想環境を作成するコマンド、「-n」の後はPython仮想環境の名前(好きな名前に設定で大丈夫です)、「python=3.11」はPython仮想環境にインストールするPythonのバージョンを指定しています。
conda create -n [Python仮想環境名] python=3.11
シミュレーションを行うPython環境なので、今回は以下の名前で作ってみます。途中で「Proceed ([y]/n)?」と聞かれたら、yを押してエンターすればOKです。少し時間がかかりますが、問題なくインストールできるはずです。
conda create -n SimulationEnv python=3.11
インストールしたら、そのPython仮想環境をアクティベートしてみましょう。アクティベートは以下のコマンドで実行できます。今回の場合は、「conda activate SimulationEnv」と入力することになりますね。
conda activate [Python仮想環境名]
アクティベート前後で以下のように表示が変わるかと思います。今、どのPython仮想環境にいるかがわかりますよね。
アクティベート前:(base) [seth@localhost ~]$
アクティベート後:(SimulationEnv) [seth@localhost ~]$
もしくは、「conda info -e」でも確認できます。実行すると、SimulationEnvの後に「*」がついていますよね。これが現在いるPython仮想環境を示しています。元のbaseに戻りたい場合は、「conda deactivate」を実行すれば戻ることができます。
# conda environments:
#
base /home/seth/miniconda3
SimulationEnv * /home/seth/miniconda3/envs/SimulationEnv
acpypeのインストール
では、次にacpypeをインストールしてみます。こちらのインストールは非常に簡単です。まず、先ほど作ったPython仮想環境をアクティベートしてください。これを忘れると、baseにインストールされてしまうので注意してくださいね。インストールは以下のコマンドを実行するだけです。「-y」は、内容の確認をせずにインストールを進めてしまうオプションです。先ほどのPython仮想環境を構築する際、「Proceed ([y]/n)?」と聞かれましたが、この手順を省略します。インストールには少々時間がかかります。
conda install -c conda-forge acpype -y
インストールが完了したら、「conda list」と入力してみてください。すると、以下のような感じでたくさんのパッケージがインストールされていることが確認できます。「# Name」のところにパッケージ名が記載されており、acpypeがインストールされていることがわかります。acpypeのみをインストールしているのではなく、acpypeと依存関係にあるパッケージも自動的にインストールされます。acpypeを動かすのに必要なパッケージもまとめてインストールされている、という理解で大丈夫です。便利なパッケージとしてambertools、packmol、openbabelといったものがインストールされており、このあたりも後々の記事で使いながら紹介していきます。
# packages in environment at /home/seth/miniconda3/envs/SimulationEnv:
#
# Name Version Build Channel
_libgcc_mutex 0.1 conda_forge conda-forge
_openmp_mutex 4.5 2_gnu conda-forge
acpype 2023.10.27 pyhd8ed1ab_0 conda-forge
ambertools 23.6 cuda_None_nompi_py311h4a53416_105 conda-forge
おわりに
今回はminicondaによるPython仮想環境の作成、および分子動力学法の下準備に便利なプログラムであるacpypeのインストール方法を紹介しました。次回からはこのacpypeを使いつつ、分子動力学法の下準備を行っていきます。ようやくシミュレーションを行うところまでやってきました。以降もできる限りわかりやすく、簡単に内容をまとめていきますので、ぜひ参考にして頂ければありがたいです。
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